「バリスタAI vs コーヒー職人、至高の一杯はどっち?」

近未来SF微小説

1. 未来の喫茶店:「AIが淹れる完璧なコーヒー」

2030年の東京。

どこもかしこもAIロボットが活躍する時代。

「世界最高のコーヒーを、最も正確な技術で提供する——。」
そう豪語するのは、全自動バリスタロボット「BaristaX」 を導入した話題のカフェ 「Cafe AImo」。
最新のAIが豆の産地、気温、湿度、抽出圧を全て計算し、毎回 完璧な一杯 を提供するという。
客はみな感動し、「もう人間のバリスタはいらない」とさえ言う。

だが、そんな流れに納得していない男がいた。
老舗喫茶店 「喫茶 風月」 のマスター、佐伯誠(さえき・まこと)。

「コーヒーは ‘データ’ じゃねぇ。」

頑なにそう信じている彼に、Cafe AImo のプロデューサー 瀬戸翔(せと・しょう) はある提案をする。

「じゃあ、一度試してみませんか? BaristaXの ‘完璧な一杯’ を。」

2. ロボットの一杯 vs 人間の一杯

佐伯はしぶしぶ Cafe AImo に足を運んだ。
そこには、シルバーの光沢を持つ バリスタロボット「BaristaX」 が静かに佇んでいた。

「いらっしゃいませ。お好みのコーヒーをお淹れします。」

佐伯は グアテマラ産の深煎りブラック を注文。
BaristaXは、豆を正確に計量し、ミルを調整し、精密なドリップで抽出を開始する。
そして、差し出されたカップをひと口飲む。

「……確かに、うまい。」
コクも、香りも、温度も完璧だ。
しかし、佐伯は腕を組みながらつぶやいた。

「けど、なんか違うな。」

翔が驚く。
「何が ‘違う’ んです?」
「たしかに、技術的には完璧だ。でも、人間のために淹れた味がしねぇんだよ。」

3. 予期せぬ出来事:「ロボットは ‘想定外’ に対応できるか?」

佐伯が帰ろうとしたその時。
カフェの扉が開き、1人の客が駆け込んできた。
「すみません!何でもいいので、一番 ‘ホッとする’ コーヒーをください!」
BaristaXのAIが作動し、すぐに豆の選定を始める。

しかし—— 問題が発生した。

「お客様の ‘ホッとする’ 定義が不明です。選定不能。」

BaristaXは、“完璧なレシピ” なら作れる。
だが、客の 気持ち には対応できなかった。

「……ほらな。」

佐伯はため息をつき、客の顔を見て尋ねた。

「お兄さん、最近忙しいのか?」
「えっ…はい、ちょっと疲れてて。」
「じゃあ、ちょっと待ってな。」

佐伯はゆっくりと豆を取り出し、ペーパードリップでコーヒーを淹れ始めた。
水を注ぐスピードはゆっくり。
香りを引き出すために、少し長めに蒸らす。
カップを温め、優しく両手で差し出す。

「ほらよ。 ‘ホッとする’ ってのは、こういうもんだ。」

客は驚きながらも、ひと口飲み、思わず表情を和らげる。
「……ああ、これだ。」
翔は黙って、その光景を見つめていた。

4. 進化:「人間の ‘気持ち’ をロボットは学べるか?」

翌日、翔はBaristaXのプログラムに新機能を追加した。
「エモーションモード」 → 客の表情や声のトーンを解析し、最適な豆と淹れ方を提案。
「カスタムブレンド」 → 常連客の好みに合わせて調整する機能。
「バリスタ・アシスト」 → 人間バリスタが ‘最後の仕上げ’ を行える。

数日後、再び 「喫茶 風月」 にやってきた翔は、佐伯にこう言った。
「マスター、あなたの言う ‘ホッとするコーヒー’ を、BaristaXも学べると思いませんか?」
「……ほう?」

翔が持参した改良版のBaristaXは、客の顔を見て、少し間を置いた後、こう言った。
「お疲れさまです。今日は ‘深煎りで優しい甘み’ のコーヒーをお淹れします。」

佐伯は、その一杯を飲んでみた。
「……まぁ、悪くねぇな。」
翔は笑いながら言った。

「やっぱり ‘人の手’ も必要だったってことですね。」
「お前のロボットの ‘完璧さ’ も悪くなかったよ。」
佐伯は苦笑しながら、カップを置いた。
「でもな、一番うまいコーヒーってのは、 ‘誰かのために淹れる’ 一杯なんだよ。」

BaristaXが静かに、その言葉を記録していた——。

まとめ:「ロボット vs 人間」ではなく、「ロボットと人間」
「喫茶 風月」では、新しく 「AI × 人間バリスタ」 の融合メニューが導入された。
朝の忙しい時間帯 → BaristaXが精密な一杯を提供
ゆっくりコーヒーを楽しみたい時間 → 佐伯の手で、客に合わせた一杯を淹れる

「結局、機械だけでも、人間だけでもダメなんだな。」
佐伯は微笑みながら、新しいスタイルの喫茶店を受け入れ始めていた。

「……まぁ、 ‘相棒’ くらいには認めてやるか。」

BaristaXが、静かにコーヒーカップを温める音が聞こえた。

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