AGI時代がいつ到来か? ~生成AI競争と未来の社会構造に関する思考(1)

生成AI動向と論文の解説(J)

会津大学 コンピュータ理工部 名誉教授 生成AI学塾長 程 子学

1. 生成AI競争の加速とAGIへの道筋

近年、OpenAI、DeepSeek、xAI などの企業が生成AI分野で熾烈な競争を展開している。特に2025年2月、イーロン・マスク率いる xAI が最新のAIモデル「Grok 3」を発表し、OpenAI の GPT-4o や DeepSeek の V3 を上回る性能を主張した。

「Grok 3」は、なんと20万台にも及ぶGPUを活用して大規模なトレーニングを実現しており、その圧倒的な計算資源の投入が、広範なデータセットから複雑なタスクを迅速に学習する原動力となっている。大量のGPUを用いることで、Grokは膨大なパラメータの更新を高速に行い、より深い層や幅広い分野にわたる能力の向上が期待される一方で、電力消費やコスト面での課題も指摘されている。

一方、DeepSeekは、ハードウェアリソースに依存するのではなく、アルゴリズムそのものの革新に注力しており、特に新たなアテンション機構「Native Sparse Attention(NSA)」を2025年2月16日に発表された論文 (https://arxiv.org/abs/2502.11089) によって提案されている。NSAアルゴリズムは、従来の全結合型アテンションが計算量やメモリ使用量の面でボトルネックとなる問題を、必要な部分のみ計算する「疎な」構造に置き換えるものである。具体的には、入力トークン全体に対して注意重みを計算する代わりに、各トークンが影響を与える可能性の高いごく一部のトークンのみを対象とすることで、計算量を大幅に削減する仕組みとなっている。

このように、生成AIの分野においては、単に大量のハードウェアを投入するアプローチ(例:Grok 3)と、アルゴリズム革新によって計算効率を向上させるアプローチ(例:DeepSeekのNative Sparse Attention)の間で、熾烈な競争が繰り広げられている。どちらの戦略にも一長一短が存在しており、今後のAGIへの道筋においては、これら二つのアプローチがどのように融合し、最適なバランスを見出すかが大きな焦点となるであろう。
 特筆すべきは、DeepSeekがオープンソース化されたことにより、世界中の研究者や開発者、若者に大きな夢と希望を与えている点である。生成AIの研究・開発は、もはや限られたテクノロジーの巨人だけのものではなく、研究室や小規模ベンチャーであっても、世界に衝撃を与える革新的な成果を生み出す可能性を大いに広げている。

1)AGIとは何か?~AI時代仕事の黄金律

AGI(Artificial General Intelligence、汎用人工知能)とは、人間のように幅広い知的タスクを遂行できるAIを指す。現在の生成AIは特定の領域に特化した「狭いAI(Narrow AI)」であるが、AGIは複数の分野にわたり学習・適応し、創造的な思考や問題解決を行う能力を持つと期待される。これが実現すれば、AIは単なる補助ツールではなく、独自の判断や意思決定を行う存在へと進化し、人間の役割を根本から変える可能性がある。

AGIの開発競争は、社会や産業構造に大きな影響を及ぼすと考えられる。高度なAI技術を開発する企業、AIアプリケーションやサービスを提供する企業、生成AIを導入する一般企業、そして個人でAIを活用する「生産消費者」など、さまざまな主体が新たな役割を担うことになる。この変化により、労働市場は流動的になり、フリーランスや複数の企業で働く人々が増加すると予想される。

また、生成AIの普及により、全体の20%の人々が80%の仕事を担い、残りの80%の人々は仕事が減少し、仕事がなくなる可能性がある。理想的なAI社会では、誰もが仕事を持ち、自身の業務の80%をAIに任せ、20%を自ら行うバランスが求められる。(AI時代仕事黄金律)

2)AGI到達時期に関するディベート

AGIはすぐに到来するのか?

  • 強化学習のみで推論能力を向上:
    DeepSeek-R1-Zero の研究は、SFT(教師あり学習)なしに強化学習(RL)のみでLLMの推論能力を向上させることが可能であることを示している。これにより、データセットに依存しないAIの学習が加速され、AGIの実現が早まる可能性がある。
  • スケーリング則とモデルの進化:
    OpenAI の研究によれば、モデルの規模を増やせば増やすほど、新しい能力が突然出現することが知られている。例えば、OpenAI の ChatGPT のさらなる発展や Grok 3 のような超大規模モデルが強化されることで、2026年~2034年の間にAGIが出現するとの見方がある。
  • AGIの実現時期については、専門家の間で意見が分かれています。一部の研究者や業界リーダーは、AGIの早期実現を予測しています。例えば、AnthropicのCEOであるダリオ・アモデイ氏は、2026年までにAGIが実現する可能性を示唆しています。 また、OpenAIのサム・アルトマン氏も2027年までの実現を見込んでいます。

AGIはまだ遠い未来であるとの主張も存在する。

  • 深い推論能力の欠如:
    ゲイリー・マーカス氏などの専門家は、現在のLLMは「統計的パターンマッチング」に過ぎず、深い推論能力を持つAGIには程遠いと指摘している。
  • エネルギーと計算資源の限界:
    現在のLLMは膨大な計算リソースを必要とし、AGIのような汎用性の高いモデルを構築するには、さらなる技術革新が不可欠である。
  • 現在のAI技術について「90%がマーケティングで10%が現実」と指摘しいる専門家や、AGIの実現には「深い推論能力」が必要であり、現状では不足していると主張している専門家もいる。

3)ペースレイヤリングの視点による変化の層別化*1

ペースレイヤリング(Pace Layering)とは、組織やシステムを構成する各層(技術、経済、制度、文化など)がそれぞれ固有の変化速度を有しており、例えば技術は急速に変化する一方で、制度や文化は緩やかに変化する現象を指す概念である。技術革新の阻害要因になる考え方である。

技術的発展は最も急速である。人類をAGIに向かって、牽引している。

技術革新のスピードは非常に速いが、その成果を経済活動に反映させるまでには一定の時間が必要である。たとえAGIが数年以内に登場したとしても、経済システムの変革、産業構造の再編、そして新たなビジネスモデルの確立には10数年の時間がかかると予測される。

さらに、制度・法律の整備は、経済的変革よりもさらに時間がかかる。AIの急速な発展に対して、各国政府や国際機関は法整備や規制の策定に追いつかない状況であり、制度的な枠組みが確立されるまでには多くの議論と調整が必要である。数十年かかるだろう。しかし、技術の発展との矛盾が生じて、大きな社会問題になる。たとえば、富の分配制度はどうするかについて議論と制度作り、AIロボットによる人類への危害は、ロボット製造者によって責任を負うか?AIロボット自身が負うかなどである。

最後に、カルチャーや伝統の変化は最も緩やかである。技術革新や経済構造の変動に対して、人々の価値観や文化、伝統的な慣習が大きく変化するまでには世代交代や長い時間が要される。したがって、AGIが数年以内に到来したとしても、世界中の人々がそれに適応し、文化的な変革が浸透するまでにはさらに長い期間が必要となる。

このような層別化された変化のプロセスにおいては、大きなハレーションが発生し、技術発展自体に対する阻害要因が生じる可能性がある。マクロ的には人々の生活がより良い方向に動くであろうが、一部の企業や個人は現在の生活水準を維持できなくなり、不満が増大する恐れがある。

この観点において、技術、経済、制度、文化の各層で変化が進む速度に応じた適切な対応が求められる。個々人がこれらの変化に柔軟に対応し、積極的に学び、適応する姿勢を持つことが、今後の社会において極めて重要な要素となるのである。


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